つぶらいん

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小説

【小説】深泥丘奇談/綾辻行人が怪談を書いた。それだけでソワソワする。

2016/06/08

あらすじ

主人公はミステリ作家の「私」。
ある日、体調を崩した主人公は近くにあった深泥丘病院(みどろがおかびょういん)へと足を運びます。普段の不規則な生活と持病もあり、念のため検査入院をすることになりました。入院した病室で妙な物音を耳にした彼がその元をたどっていくと、そこにあったのは人間の顔のようなシミと隆起。ところが翌日になると、その壁にはなにもありません。主人公は担当の看護士にこの病院についてたずねるのですが……。(1話目「顔」)

主人公の「私」を軸に語られる綾辻行人流怪談話です。
著者ご本人もあとがきで書かれていますが、怪談と言ってもスタンダードなものとは違い、綾辻色がかなり強いです。ファンは大喜びですね。わたしも大喜びです。
看護士が「咲谷」な時点ですでに「ほほう……」ですよ。

作家の「わたし」が直面する怪異の物語

綾辻行人の怪談はやはり一筋縄ではいきません。
ミステリに慣れていると、しっかりとした結末を求めがちですが、今回は怪談です。怪談というのは、解き明かしすぎると興ざめする部分があり、「よくわからない」で終わらせるさじ加減が大切だったりします。

この本が「ホラー小説」ではなく「怪談」と言えるのはそのあたりかなと。

主人公自身が様々な不可解な出来事に遭遇するわけですが、傍観者的立場だったり、当事者だったりとさまざまです。主人公は自他ともに認めるリアリストであるのに、不可解なものを不可解なまま受け入れてしまっています。

それも、はっきりとそういうものだ、という受け入れ方ではないのが絶妙。記憶がはっきりしなくなったり、突然激しいめまいに襲われて倒れたり。さらには完全なる当事者になってしまい、自分が何かをされているらしいのに、どうなっていたのか分からないまま終わってしまったりします。

主人公は「そういうもの」を信じていると名言しませんし、そういう発言もしません。
そこらへんはもう突っ込むほうがヤボな気がしてくるんですよね。怪談のなせる技。

自分のなかの当たり前な現実感があっという間に遠ざかる

この物語全編覆う非日常な空気は、どうにも記憶が曖昧な主人公と、不可思議な風習を当たり前のように語る周囲の人々によって作られています。
時にじれったくなる主人公の認識の曖昧さは、これらの奇妙な風習を「おかしなもの」として分析をするなどという無粋さから隔離してくれるので、まぁお話的にはその方がいいのです。わたしたち読み手がわも一緒になって「これはどういうことなの……!?」と頭を抱えることになるでしょう。

奥さんの存在がさらに絶妙なのです。
奥さんよりも長くこの土地に住んでいて、知っているはずのことすら覚えていない主人公。奥さんに「え? 知らないの?」と当たり前のように言われるたびに、自分の認識の方を疑ってしまうのです。

周囲の人々の「あたりまえ」の認識。それが、「こんなのおかしいだろ!」と断じられない状況を作りだします。右往左往してるのは自分だけだったらそりゃ突っ込めなくなりますよ。というか「あ、そういうものかも……」なんて思っちゃったりして。

それぞれの話で起こるとんでもない出来事は、どこまでが事実で、どこからが主人公の幻想めいたものなのかもわかりません。内心動揺する主人公をよそに、周囲の人々がまた平然としていることも、あれが妄想だったんじゃないかと思わせる要因になっているんですが、フツーに「ほらあのときの……」と会話に出てくるので、主人公も「あ、そういえばそんなことが……」と再認識するんですよね。

不可解な現象をとりまく人々

直接怪異に関わるわけではないのですが、彼をとりまく人々がまた魅力的なのです。

主人公が通う深泥丘病院の脳神経科の医師、石倉(一)と看護士の咲谷。
病院に行った時に主人公が見聞きしたことを話すこともあれば、現場で彼らに出くわすこともあります。

そして不可解なのが同じく深泥丘病院の消化器科の医師、石倉(二)。さらに歯医者の石倉(三)。
3人登場する石倉医師は兄弟なのか、親戚なのかもわかりませんが、顔だけはそっくりです。眼帯をしているのが左右逆だったり、眼帯なしでメガネをしていたり、と様々です。その違いだけで見分けることになるほど似ています。

この石倉医師の立ち位置がなかなか不可思議なんですが、なぜか主人公もあまりそこには突っ込みません。
狂言回し的なものでもなければ、解説者というわけでもありません。この作品を魅力的にしているのは、この不可思議な主人公のかかりつけ医であると言っても過言ではないでしょう。

奥さんはというと、猫目島というなかなか特殊な風習の残る島出身。続くのならこの辺りもまた絡んで面白い話がありそうです。

続編もあります

自由度の高い連作短編なので、どんどん続編出して欲しいですね!
ガッツリの長編とはまた違う味わいです。どの短編も濃くて似たような話が1つもないのがすごいんですよ。同じ短編でも、「ホラー小説」として書かれた眼球奇談とは漂う空気が違います。これはいいシリーズ。

続きももちろん読みましたのでまた別でご紹介します。

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