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小説

【小説】依頼人は死んだ/不運の探偵・葉村晶シリーズ。

2017/01/22

若竹七海の作品の中でも最高にいいキャラクターなのが、この作品に登場する葉村晶という女探偵です。

とんでもない状況に次々巻き込まれる不運な探偵は、いつだって調査に手を抜きません。一見とても強そうですが、決して冷淡ではなく、ぶっきらぼうで人を頼るのが下手だったりして、そのアンバランスさがとても魅力的なのです。

彼女がこの性格なのに、あんなにも周りに厄介な人たちがよってくるってすごいなぁと思ったんですが、なんのことはない。探偵だから厄介な依頼人に当たるっていうのもあるんですね。にしても酷い目に遭いすぎる。

あらすじ

元探偵の葉村晶は、退職した長谷川探偵事務所の所長から再雇用をもちかけられます。安定した職に就くことに抵抗のある晶はいったんは断るのですが、所長から「契約探偵」という形式を提案され、その自由さに惹かれて引き受けることになります。

依頼は、ある酷い嫌がらせを受けているという女性有名人の身辺警護です。
割のいい仕事だと思っていた晶でしたが、その嫌がらせは命を狙うレベルで、一時も気が休まる状況ではありません。
依頼人に心当たりを尋ねても実のある返答はなく、嫌がらせのFAXや郵便物は止まらず、それも日々エスカレートしていきます。

探偵・葉村晶シリーズの連作短編集です。

依頼人は死んだ/若竹七海

探偵という職業柄、人の色んな面に遭遇する

わたしはミステリは好きですが、読み手としては邪道な方なのか、トリックがどうとか、犯人を推理する、とか言う方向はあまり興味がありません。
すべてはそこで語られる物語のアイテムと思っています。
やはり観たいのはそこで繰り広げられるドラマ。

晶はある事件により勤めていた長谷川探偵事務所を退社しています。戻って来ないか、と所長から打診されるものの気が進みません。そこで提案されたのが、契約社員ならぬ契約探偵。長谷川探偵事務所が女性の探偵が必要な時に依頼する、という形式でそのつど必要な時に晶に依頼する、という形です。

いわば、フリーの探偵。
なので、ここで語られる物語は、長谷川探偵事務所の仕事としての探偵よりも、「探偵」の肩書きを持つ晶がフリーで引き受けた話もあります。

調査の発端も、友人の婚約者の自殺の理由を探ることになったり、大学生のレポートのための調査をしたり、ちょっとしたバカンスに行ってみたり。

などなど、様々な形で関わることになります。
ミステリの短編集と言うと、事件が起きてそれを解決するために探偵が、というのがセオリーですが、このシリーズはその辺りは一筋縄ではいきません。スタンダードな殺人事件などまったく起こらないのです。

この本を取り巻くのは「自殺」

それは姉の死を引きずる晶に重くのしかかるもので、彼女が貪欲に探偵という仕事にのめり込む一因でもあります。そのアプローチの仕方は様々です。

印象的なのは「鉄格子の女」。
自殺した画家とその妻の事故死に関する話で、大学生から書誌学のレポートの作成を依頼された晶が、調べるうちにその画家に興味が湧いてきて……というお話。晶の謎に対する貪欲さもですが、直感的なものの鋭さが味わえる短編です。

どの短編も味わいが苦いです。
そもそもとして自殺した人の理由をひっくり返すわけで、当然と言えば当然でしょうか。時には依頼人の望まない結論を引き出してしまうこともあります。

謎が解けたからと言ってすっきりするというタイプの物語ではありません。
ただ、それと向き合う晶の姿にいつの間にか引き込まれてしまい、ページを捲る手が止まらなくなります。

若竹七海の連作短編が面白い!

若竹七海は連作短編の作家だと思っています。
連作短編というのは、1つ1つが独立した物語として成立する短編が、1冊の本にまとまることで1つのお話としても成立するもののことです。登場人物が共通しており、主人公がひとりのこともあれば、登場人物たちで主人公が順番に代わっていくこともあります。
形式も様々ですが、1話目の短編で謎が残り、最終話で何らかの結末をむかえることが多いでしょうか。長編ともまた違う味わいがあるのが魅力的です。

若竹さんはなど連作短編の名手です。1つ1つの短編で描かれる謎、推理も魅力ですが、それを通して描かれる人間たちがいいんです。短編が連なることで、その人々に厚みが増し、どんどん興味が出てきます。

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