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【映画】叫/自分が女を殺したのか……? 疑心に捕われる刑事の苦悩。黒沢清監督はやっぱりすごかった!  

2017/01/18

事件を捜査する刑事である主人公が、現場に自分が事件に関わっているような証拠を発見した上に、それ以来被害者の女とよく似た風貌の女の影を目撃するようになってしまうお話。

葉月里緒奈がやたらクッキリした幽霊を演じて強烈に印象に残ります。

あらすじ

海岸沿いの埋め立て地で女性の他殺体が発見されます。現場は地震のため液状化してしまっており、海水の水たまりができています。そのせいで証拠のほとんどが消えてしまっていました。
死因は海水による溺死。

刑事の吉岡は現場で自分の物と思われるコートのボタンを発見します。それは自分の持っているコートのボタンと同じものだったのです。ボタンはひとつなくなっており、吉岡は不審に思います。
さらに、遺体の爪から被害者のものではない指紋が検出されるのですが、その指紋も吉岡のものでした。

自分に対して疑いを持つ吉岡は、赤いワンピースの女の幽霊を見るようになります。


2006年 日本
監督:黒沢清
出演:役所広司、伊原剛志、小西真奈美、葉月里緒菜

白い服の女の幽霊に慣れていると衝撃を受ける赤い服の女

冒頭で役所広司演じる吉岡が赤い服の女を殺害する描写があります。
てっきり殺人を犯した刑事がその亡霊に悩まされる話なのかと思いきや、そうでもありません。

あまりにも物理存在感の強い幽霊に最初はぽかーんとします。
貞子とかに慣れていると、普通の人間的な存在感に自分の中の処理に困ります。しかし新しい。新しいぞこれは。
自分の中で処理しきれないまま、赤い服の女(幽霊)は吉岡に迫ります。しかし、彼女の言葉は不可解で吉岡を困惑させるばかり。
ましてや自分が殺した相手かもしれない(覚えてないけど)と思うと、彼の動揺も理解できます。

現場に自分のものかもしれないコートのボタン。
被害者の爪に自分の指紋。
被害者を拘束していたコードと同じものが使われている自分の住む団地。

そして現れる被害者と同じ赤い服を来た女の幽霊。

自分を信じられなくなることはとても怖いことです。自覚がないのに、自分が犯人かもしれない物的証拠が次々と出てくるのです。
単純に考えると、吉岡が犯人でただ忘れているだけ、という解釈も成り立ちますが、そう簡単には行きません。黒沢清監督だもんね……。

吉岡=犯人という話と思って見ていると混乱するでしょう。
第2第3の殺人が起こり、それぞれにきっちり犯人が存在します。連続殺人でもなく、ただ不可解な共通点があるだけ。作中の警察同様に観る側も混乱します。そこに一体なんのつながりがあるのか。

おかげで、赤い服の女を殺したのは吉岡なのか、という疑問はなかなか晴れません。
なにしろ吉岡の元には赤い服の幽霊が現れている。お前真犯人じゃないの?という疑いは残り続けます。それは吉岡自身も同じで、精神科医に「幽霊が出る相手を間違えることはあるのか」という質問をしたりしています。

相変わらずカメラワークがすげぇ

ホラー映画あるあるですが、登場人物たちの視界から外れたところで何かが映し出されているシーンが多々あります。
例えば、主人公が見ていない鏡の中とか、窓の外とか。

言ってしまえばありがちに思える演出ですが、そこをさりげなくこちらに覗き込ませる技術はすごいです。
序盤で吉岡が夜中にうなされて(あの夢傑作だった)目覚めた後、一人キッチンで水を飲んでいるシーン。付けていた灯りが急に消えてしまいます。しかし、よく見ていると鏡の中ではまだ灯りがともっています。一瞬「別の部屋が鏡に映り込んでいる?」と考えますが、そう思ったあたりでスーッと鏡の中も暗くなるのです。

別にこれ、気付いても気付かなくても良いぐらいのシーンですけど、そわぁっとしますよね。

そんな感じの仕込み映像が随所にあるのです。
そんな風景のような描写も、ことの真相が明かされたとき、受け手が風景と認識していたものがそうではない場合もあることを突きつけられるのです。

静かにそこにある存在感

被害者の共通点が「海水」です。第一の被害者は埋め立てられた土地で、液状化が起こってふきだした海水の水たまりで殺害されました。
頻繁に地震が起こり、呼応するように幽霊が姿を現します。

変化の多い土地で、忘れ去られた存在の叫びとも言える本作。
変化が多いからこそ、そこから取り残されるものも多くあるものなのでしょう。

強くその存在を示すわけでもないのですが、ひたひたとすぐそこにある海の存在感が全体に影響を与えています。

例によって回路と同じく昔観たときは「よくわかんなかった」映画でした。あらためて観たらすごく面白くて、自分でも驚いています。ホント昔の自分の理解力に凹みます。黒沢監督ゴメンナサイ。

かなり計算された映画で、主人公と一緒になって混乱する前半、事件が積み重なっていく中盤で観る側を突き放しておいて、見事に収束される後半の展開が見事。
観終わった後色々と答え合わせをするためにもう一度観たくなる映画です。

余談

役所広司演じる吉岡が住む古い団地がいい感じで、ちょっと住みたい間取りです。
思えば、「リング」の高村竜司が住んでた部屋も良いなぁって思ったんですよね……。なんだ、ホラーに馴染む部屋が好きなのかわたしは。

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