つぶらいん

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小説

【小説】最後の記憶/記憶を失っていく母に残る強烈な最後の記憶とは……?

2016/12/11

独特の余韻を残す綾辻行人のホラー小説。
全体的に薄暗く思い悩む主人公につられて、どんどんドンヨリとした気持ちに引きずられていきます。評価はまっぷたつという印象です。本格ミステリ的なものを求めるとちょっと違うな、となるストーリーなので、ホラーであるという認識を忘れずに!

あらすじ

波多野森吾は入院する母を見舞うのをとても憂鬱に感じています。
母、千鶴は特殊なアルツハイマー病を患っており、記憶がどんどん抜け落ちていっている状態です。心身ともに消耗が激しく、ひとりで身の回りのことすることもできなくなってしまいました。容貌も、彼がよく知っている彼女ではなくなっており、50代とは思えないその衰えぶりを、森吾は直視できずにいます。

それは母を案ずるというよりも、その病気が自分に遺伝してはいないかという恐怖でした。

記憶が失われていくごとに、千鶴の中で鮮明になっていく幼い日の恐怖の記憶。彼女はその記憶に怯え取り乱すことも多くなりました。

自身の不安と向き合うために、森吾は幼なじみの唯とともに千鶴の親族を訪ねることにするのですが……。

最後の記憶/綾辻行人

ハードな現実の話は綾辻作品では珍しい?

若くしてアルツハイマー病を患った母と向き合えない息子、と書いちゃうとえらい現実的な話に聞こえますが、そこは綾辻行人、一筋縄でいくわけがない。

鍵になるのは、記憶を失っていく母、千鶴に強烈に残っている幼い頃味わった恐怖。
他の記憶が失われるにつれて、より鮮明になっていくその記憶は、何らかの殺戮の現場に彼女が巻き込まれたのではないかと思わせるものだったのです。

その手がかりは千鶴が怯えて取り乱したときに口にする言葉だけで、一体どういうことだったのかを知る人はいません。

森吾自身は、母の病状に対し、自身もいずれ同じ病気を患うのではないかという不安を抱えます。大学の研究からも離れ、塾講師をして暮らす日々。その不安は兄や妹にも話せないまま、森吾の中でふくれあがっていきます。

そんな中、幼なじみで大学の同級生だった唯と再開したことで、ほんの少し状況が変わって行きます。
やや強引な彼女に引っ張られ、ようやく森吾は一歩踏み出すことになるのです。

母が話す過去の話について調べるために、祖父の暮らす故郷の町へと向かいます。ここで森吾は、母の過去とも向き合うことになります。はたしてこれは彼を不安から解放してくれるのか……。

重いテーマと暗く沈んだ森吾の精神状態で、恐ろしく陰気に話が進んでいきます。

ミステリではありません

上質なホラーであり、ミステリであった「Another」の前にこの作品を書いていたのは、読者としてはかなり興味深いです。

綾辻行人と言えば、館シリーズでおなじみの本格ミステリ作家、というのが読者の認識ではあります。しかし、ミステリである囁きシリーズで幻想的かつホラー的な演出を加えていたり、「殺人鬼」では本格ミステリとゴリッゴリのスラッシャーをミックスしたりと、作品もミステリの枠内でおさまるものではありませんでした。

ご本人もホラーマニアであることはよくインタビューやあとがきで触れています。
今では深泥丘奇談シリーズで怪談まで書いており、もはやこの作者の書くものはどっちなのかわかんないぞーと覚悟して読まなければいけないのです。

ミステリとホラーというのは似て非なる存在で、ミステリだと思って読んでいたらいきなりホラー展開で結末を付けられると腹が立ったりしますよね。
結局評価の分かれ目は、自分が何を求めてこの本を読んだのか、というところなのかなと思うのです。

この作品はそういう意味で危うい立ち位置にあったと言えるでしょう。何しろ前半はミステリ的展開と思えるから尚更です。

ただ、ジャンル分けというところに引っかかって、この作品の魅力が損なわれるというのはとてももったいない。先入観をもって読むと、本来の本の楽しさに触れることができなくなることもあるんですよね。

幻覚か現実か、主人公と一緒に引き込まれる世界

母に最後に残る恐怖の記憶と、自分自身が体験した不可思議なキツネ面の記憶が入り交じり、主人公が混乱を極めていく様にはグイグイ引き込まれます。

家族の関係、森吾の抱える不安のはざまに現れる子供をターゲットにした殺人事件は、一件無関係なように感じますが、この物語に大きく影響を与えています。当の子供たちはどこか達観したような言葉を森吾に残します。彼らが何をどこまで分かって話しているのかは分かりません。

事件どうしに関連性はありませんし、森吾の言っていたことは妄想です。しかし、そこになにかあったのではないか、と思えてならないのです。

幻想的な風景のなかに突如現れる殺戮の記憶は、とても印象深く美しさすら感じさせます。なんともいえない読後感も含めて、じっくり味わえる作品だと思います。

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