つぶらいん

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小説

【小説】脳髄工場/みんなが「人工脳髄」をつける世界。感情は抑制されることで、平和で穏やかな世界になる?

2016/12/11

タイトルからしてすごく読みたくなります。「脳髄工場」いい響きです。そして内容がまったく想像できません。角川ホラー文庫で出ている短編集です。

全体的にホラー色は抑えめな印象でした。SFというか、奇妙な味わいの話が多かったです。ストレートなホラーは書かないイメージの著者ですので、そこは相変わらずとも言えるでしょう。

あらすじ

犯罪者の矯正のためにあった「人工脳髄」。それは脳に直接働きかけて感情を抑制するもので、だんだんと一般に普及し、今では成人まで付けるのが当たり前になっています。
自分の脳髄のままでいつづけることにこだわる少年と親友。彼らは中学生になり、周囲がほとんど人工脳髄になって行く中、数少ない天然脳髄でした。しかしちょっとしたきっかけで親友が人工脳髄にすることになってしまいます。天然脳髄ではなくなってしまった友人に違和感を感じ、彼らは疎遠になってしまいます。

少年は孤独で、疎外感を感じていますが、それでもまだ脳髄を装着する気にはなれなれません。
高校に進学し、好きな女の子ができたのですが……。(脳髄工場)

脳髄工場/小林泰三

「脳髄工場」っていうタイトルでまずガッチリ掴まれる

収録作品は以下の通り。

  • 脳髄工場
  • 友達
  • 停留所まで
  • 同窓会
  • 影の国
  • C市
  • アルデバランから来た男
  • 綺麗な子
  • 写真
  • タルトはいかが?

短い話も多く、スッと仕掛けを呈示してサッと幕引きする話もあったりして、通して読むとテンポが良くて読みやすいです。

表題作の「脳髄工場」は著者らしいSFホラー

自分の意志にこだわり、それゆえに苦しむ少年。人工脳髄を付けた人たちは穏やかで幸せそうですが、彼にはそれが本当の姿には思えないのです。抑制された感情はもしかしたら本来のその人を表すものなのかもしれないのです。

作中で主人公の少年は何度も親友たちにそれは本来の君なのか、と問いかけます。しかし変化を受け入れた彼らの脳髄は制御されているため、そこにあまり疑問を覚えません。穏やかに主人公に語る彼らに対し、感情をあらわにする少年は、やはり異端に映ります。

天然脳髄のまま生きる、ということも可能だし、それは少年の自由です。しかし「人工か天然か」に強烈にこだわる主人公は、人工脳髄を受け入れた人々を許容できないでいるようです。自分が天然脳髄であることを差別されたくないと感じているのに、過剰に反応しているのは彼自身なのです。

小林泰三作品入門編にちょうどいい

最高に嫌な気持ちにさせてくれる「綺麗な子」。このタイプの女性キャラクター、キッツイですね。以前紹介した「家に棲むもの」の「食性」に出てきた嫁みたいな……。
でもやっぱり流される男が一番悪い気がしてくるんですよね。ガッチリした信念があるわがままな女性と、その女性に結局合わせる男。しかし「脳髄工場」の主人公のようにガチガチにこだわると酷いことになるのも確かです。

今作のお気に入り短編は「アルデバランから来た男」です。
牡牛座のアルデバランからやってきたという依頼人から聞かされる星で起きた悲劇と、それの相談に乗る先生と助手のお話。

思わず笑ってしまうオチの「写真」もなかなか好きです。

小林泰三入門編的に読むのにちょうどいい本ですね。「家に棲むもの」あたりと比べると、まろやかな仕上がりのものが多いです。小林泰三作品に慣れた読者には物足りないかな?

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