つぶらいん

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小説

【小説】人獣細工/知ってはいけなかった自分の体に隠された秘密。

2016/12/02

「玩具修理者」で第2回ホラー小説大賞短編賞を受賞した著者の2冊目の短編集。「玩具修理者」で度肝を抜いた後の2作目にはまた濃い作品がゴッソリ入っています。

「ぶた」からの移植で生きながらえてきた少女と移植を行ってきた父親の秘密を描く表題作に、少年と吸血鬼の攻防を描く毒のはらんだ短編「吸血狩り」、そして問題作の「本」が続きます。初期作品とは思えない濃さにくらくらしますね。傑作揃いです。

人獣細工/小林泰三

あらすじ

臓器移植を専門とする高名な医師を父に持つ夕霞。彼女は幼い頃から何度も移植を繰り返し、身体中が継ぎ接ぎだらけの跡が残っています。人間の細胞と配合した特殊なぶたを使用した移植手術の初期の成功例でした。

父親の死後1人残された夕霞は、過去を振り返りながら父の遺品である研究資料を整理することにします。しかし、そこには彼女が知らないほうがよかった事実が収められていたのです。(人獣細工)

収録作品

  • 人獣細工
  • 吸血狩り

収録作品数が少ないのは、「本」がこの短編集の約半分のページ数を締めているからです。
少ない分作品1本1本が読みごたえのある仕上がりです。

あまりにも特殊な環境で育った主人公は、父親の死後も苦悩し続ける

周囲からの評価と、家庭内での姿に隔たりのある親、というのはよくある話です。しかしこの主人公の父親は対外的にも、娘の夕霞に対しても「よき父親」を演じ続けていました。それでも直接接する夕霞は父になんとも言えない違和感を感じ取っていました。

この作品の異様さはやはり彘(ぶた)の臓器を移植する、ということ。どのように、という詳細は作品で確認をしていただくとして、簡単に言うと、その人本人の細胞を持った彘を作ることで拒絶反応が起こらないのです。

そんな方法がメジャーになる重要な役割を果たしたのが、夕霞の父だったのです。夕霞は幼い頃から度重なる移植を受けてきました。実験的な試みも多く、彼女が初の成功例になったケースも多いようです。

彼女は育つに従って、自分の異様さを感じとり、やがて自分と彘との境目は何かを考え出すようになります。果たして、自分の体はどこまでが自分のものなのだろうか、と。大半が移植された彘で構成される自分は、一体なんなのだろうか、と。

やがて夕霞は自分を人彘(ひとぶた)と思うようになります。

知らなかったけど史記ってすごいね

漢文の史記に出てくる呂后と戚夫人の話が印象的に盛り込まれています。冒頭に引用文もあります。

漢文は高校時代にサヨナラしてからまったく接触がないため、この話は初めて知りました。読んだあとにどういう話なのかを調べて、あまりの内容にウゲーとなりました……。中国容赦ないね……。

以下Wikipediaから「戚婦人」の項目の一部引用。

そして呂太后は、長安に入朝した如意を毒殺した。その前後、戚夫人も殺害された。『史記』によると呂后は戚夫人の両手両足を切り、目耳声を潰し、厠に投げ落としてそれを人彘(豚)と呼ばせ、さらに恵帝を呼んでそれを見せたため、彼は以後激しい衝撃を受け、酒色に溺れるようになり早世したという。

ウィキペディア (Wikipedia): フリー百科事典 「戚夫人」の項より引用

自分という物の根拠を探すため、父親の遺品の研究資料を調べ始める夕霞。

そして彼女は知らないほうが良かった事実を知ることになるのです。

そして問題なのが「本」

ある本を巡る話なのですが、なかなかに奇怪。
笑える描写が最終的に物悲しくなっていくのは他ではない体験です。

小学生時代の同級生から突然送られてきた薄汚れた本。幼なじみの元にも届いており、不可解に思いながらも読み始める主人公たち。
その本は物語なのか自己啓発本なのか、何かの解説書なのか、よく分からない体裁です。

冒頭には本を読む上でのルールが明記され、「ちゃんと読め」と念を押されます。

主人公はそんな注意書きをスルーして好きなように適当に読み飛ばしています。ルールを重く考えてはいないのです。
しかし、同級生のひとりの豹変を目の当たりにし、この本について調べはじめるのです。

間に挟まれる作中の「本」の文章はこれがどういうことなのか理解するためのヒントになっています。まともに読もうとすると目が死にそうになる文章もあったりするので、精読は大変だろうなぁと、作中の人物に同情したりもします。

グロと笑いの緊張と緩和

本を発端にして起こる大混乱はコミカルで、そこで起きていることのエグさを一瞬忘れさせます。だから笑っていいのか怖がるべきか読んでいて混乱するんですよね。それがこの作品の魅力でもあるんですが。

登場人物の軽快な関西弁も特徴で、わたし小林泰三作品だとこういうのが好きなようです。「家に棲むもの」に収録されている「肉」も笑いとおぞましさのバランスが絶妙でした。

ホラー小説は作品の性質上緊張感が高まりますが、「本」も「肉」もその緊張を強制的に緩和しにかかっている部分があります。

だから読んでいると「え、笑っていいの? なにげにグロいことになってるケドー!」みたいに混乱しちゃうんですよね。狙ってやってるなら完全に術中にハマってる。映像だと目の前でグロが繰り広げられるからあんまり余裕ないけど、小説だと「よく読めばエグい」とか「うっかりスルーしてたけど実はグロ」という手法もできるんだなと感心したりして。

1本1本がかなり濃い作品集です

おぞましさが迸る「人獣細工」に続く「吸血狩り」はどこかさわやかに感じるから不思議です。少年が主人公なせいでしょうか。
しかしその根っこにあるのはなかなか凶悪な仕掛け。

濃い2作品に挟まれている関係で、印象が薄くなりがちですが、作品の残す余韻に含まれる毒の強さはなかなかです。

どれもこれも違う味わいな上に面白い。
小林泰三さんの作風を思う存分味わえます。今のとこ自分的にベストな1冊。

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