霊幻道士になじみ深い人たちにはかなり嬉しい要素が入っているオマージュたっぷりの映画なようです。俳優さんもかつて出演していた人たちらしい。
……すいません、この書き方で分かると思いますが、わたしはそれに当てはまりません。
霊幻道士がどうこうというよりは、香港映画はほとんど観ないのです……。そのへんは好みの問題です。
ということで、わたしの感想やら何やらはそのあたりの事情は一切ふまえないものとなっておりますので、ご了承下さい。
スポンサーリンク
あらすじ
落ちぶれた俳優のチン。妻子を失った彼は寂れた集合住宅へと引っ越してきます。
荷解きもそこそこに、彼は部屋で首を吊ろうとします。しかし同じ団地に住む元霊幻道士に助けられます。チンが案内された部屋は曰く付きらしく、首をくくろうとした彼に怪しげな霊の姿がまとわりつきます。
チンを助けた霊幻道士はこの団地の一画で料理人をしています。店に足を運んだチンに、同じ団地に住む老女が声を掛けてきます。彼を心配し優しい言葉をかける彼女は、団地の中でも慕われています。
しかし、老女の夫が階段で足を踏み外して落下する事故が起こります。彼女はそれを受け入れられずに、夫を呼び戻す方法を試します。
キョンシー
2013年 香港
監督:ジュノ・マック
出演:チン・シュウホウ、アンソニー・チェン、クララ・ワイ
※ネタバレ注意
双子の霊怖ええええええ!!!
曰く付きの部屋にうっかり引っ越してきてしまったというとことで巻き込まれる主人公のチン。
彼の住む部屋では過去に凄惨な事件が起こっており、そこで死んだ双子の女性の霊が取り憑いています。大変凶暴な彼女たちは静まることを知らず、道士も手を焼いているようです。
薄ぼんやりと現れる幽霊とは一味違うそのビジュアルは一見の価値ありです。
彼女たちの事件もまた救いようがなく、そりゃ悪霊にもなるよねーというのが感想。
この映画の見所はなんと言っても老女の狂いっぷり
夫が事故で死に、彼を呼び戻すために道士(主人公を助けた方じゃない方。現役)に頼みまじないを施す老女。
住民たちから慕われる優しい彼女が、夫を失いたくないというそれだけのためにどんどん他人を犠牲にしていく姿は薄ら寒く感じます。
面倒見の良かった警備員のおじさんは、追い返すこともせず撲殺。容赦ないめった打ち。
そして夫がなかなか目覚めない(一応反応はある)のに業を煮やし、可愛がっていた団地の子供の生き血を捧げるのです。
この老女がすごいんですよ。夫が死んでしまう前はすごく優しい良い人だったんだろうなと思わされる描写が多いので、そのギャップが効いています。
はっきり言って中盤以降は「誰かこのババア止めろ」という気持ちでいっぱいになります。
彼女の行動は悲しくもありますが、同情するには少々やりすぎました……。
子供のシーンはなかなかにショッキング
信頼していた優しいおばさんのところに遊びにいったら、ためらいもなく生け贄にされてしまうのです。そのシーンは実際には映し出されないのですが、バスルームに閉じ込められた子供に背後から忍び寄るキョンシー。助けを求めて泣きわめく子供の声を無視して、ドンドンと揺れるドアを抑える老女。
そしてその後、やってきた元霊幻道士が目にしたのは、血まみれのバスルームに落ちている少年の髪の毛と肉片だったのです。
そのものを映さずにそこで何が行われたのかを察することのできる怖ーいシーンです。
ホラーの場合、主人公と仲良くなった子供は助かる法則があるんですが、容赦ない。子供の生き血が必要、というのが臭わされたとき、「主人公が間一髪助けるのね!」と思ったんですがそうではありませんでした。こういう手加減ないところは嫌いじゃない。
まさかの夢オチ!!!!!
冒頭の様子だと、自殺を図ったのは、精神状態に双子の霊が影響したからのように見えましたがそうではなかったようです。
激しい戦いが終わった瞬間、彼が引っ越してくる瞬間に時間が戻ります。ここまで観てきたのと違う人間もようが映し出され、見てるこっちも困惑。
元霊幻道士は料理屋で雇われており、老女の夫はすでに亡くなっています。エレベーターで出会う元2442号室の女性と子供は普通のマダムと子供。これまでのストーリーがどっか行く展開。
そして彼は、誰にも邪魔されることなく首を吊るのです。
要するに自殺した彼の脳内で起きたものすごい空想物語だったってことか?! と観ている側には「????」となること間違いなし。
なかなかに残酷で救われない話だったので、余計に彼ひとりの妄想と思うと「おま、なんの怨みがあって……!」と突っ込みたくなります。
すべてを失った男が、贖罪のために闘った……のか?と少々解釈に悩むものでした。
彼自身が自殺してしまうに至る経緯で妻子と何かあったのは分かりますが、それにしてもだからといって登場人物にされた人たちが酷い目に遭いすぎ。
いや、妄想は自由ですよ。頭の中でどんなスペクタクルが繰り広げられ用とも自由ですが、それに2時間近く付き合ったわたしの気持ちはどうしてくれるのだ!
夢オチは嫌いだ。
わたしがイマイチこの映画に乗り切れなかったのは、霊幻道士にそこまで思い入れがないというのもありますが、どうにも話の主題が見えにくいのもありました。
引退した霊幻道士が発起する話というわけでもないし、主人公の再生の物語でもありません。群像劇的ニュアンスも強く、ホラーに没入するには今ひとつというところでしょうか。
恐怖シーンもいいし、双子VS道士2人の戦闘はかなりいい! だからこそ、ストーリーがイマイチとっ散らかっているのがもったいなく感じました。
登場人物みんな酷い目にあってほぼ全滅してるわけですが、ここまでの悲劇を描くのなら、なおのこと夢オチが悔やまれます。悲劇を受け止める前に「え、夢?!」ってビックリして終わっちゃうからさ……。