「姉飼」で角川ホラー小説大賞を受賞した遠藤徹の短編集。
「姉飼」のインパクトが強烈ですが、それに勝るとも劣らない作品たちです。
タイトルだけ見てもそれがうかがえるのがすごい。「ホラーがあんまり好きじゃないよ」ってひとにも1度味わっていただきたい世界です。
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収録作品
収録作品は以下の通りです。
- 弁頭屋
- 赤ヒ月
- カデンツァ
- 壊れた少女を拾ったので
- 桃色遊戯
表題作含む5作品。
どれも読み手の予測なんて吹っ飛ばす展開。どうやって思いつくんだこんな話……(褒めてる)。
壊れた少女を拾ったので/遠藤徹
世界や背景を吹っ飛ばす弁当のインパクト
1話目から飛ばしてます。
戦争をしている世界なのですが、日常からはちょっとかけ離れています。
主人公は大学生で、戦争の影響で大学が移転し辺鄙な場所で生活しています。周辺に店がないため、大学周りには日常的に弁当屋がやってきます。職員も生徒もそこで弁当を買うわけです。
しかしその弁当が問題で、タイトルの「弁頭屋」の通り人間の頭をくりぬいてそこにご飯が入っているのです。
そのインパクトで「戦争が〜」とか、主人公が弁当屋の双子のひとりのことが好きだ、とかそういうのが全部吹っ飛んで行きます。
そうだそうだ、この作者は「姉飼」のひとだった。
あの短編だけでも強烈でしたが、そこにつらなる他の短編もまた凄まじいものでした。それを思えば、納得の世界です。
こんな感じで読みはじめから「ん?」となる箇所がたっぷりで翻弄されまくる短編がまたもたっぷり味わえます。
奇天烈すぎて追いつけない自分がいる「カデンツァ」
主人公夫婦が、それぞれ「IHジャー」と「ホットプレート」と家庭内で不倫するというパンチの効いた「カデンツァ」。この一文で意味が分からないと思うでしょうが、本当にそういう話なのです。
ギャグでもなんでもなく話は大真面目に展開して行くのです。読み終えたあと、一体どういう感情を持ったらいいのか分からなくなります。
「姉飼」を読んでいれば、作者が描く世界がどういうものなのかは分かるので、この突飛さも飲込んで読みすすめるはずです。
「物」に感情が宿る世界は「姉飼」に収録されている作品でもありました。あれはジャングルジムが語り手で進むので、「カデンツァ」とは逆です。こちらは主人公は人間です。そしてその世界では家電はやはり家電でしかありません。
しかし、主人公たちを含む一部の人たちは、家電と恋愛をするのです。
分かんないですよね。うん、分かりません。何度か読みましたが、本当にどう言ったらいいのか難しいです。
お気に入りは「桃色遊戯」
割と分かりやすい部類に入る短編です。特殊なダニによって、世界が崩壊していく様を描いていて、著者の作品にしてはとてもシンプルです。終末の世界のどうしようもなさがいい!
世界がピンク色に染まり、すべてが汚染されて行くなかで、意を決して外に出るもの、研究者たち、閉じこもっていた家族、子供たちなど様々な人の視点で世界が描かれます。
濃い世界が癖になる
こちらの理解を超越した作品がゴロゴロです。
あまりにも濃すぎる作品群。間にかわいい動物の動画でも観て理性を保ちつつ読んだほうが精神的にもいいかもしれません。
「姉飼」はすごくいいぞ……!