グロテスクかつ凶悪なものを読みたいときにおすすめなのが牧野修作品です。
登場人物全員がどう転ぶか分からない主人公補正が一切ないものばかりで、まったく展開に予測がつきません。
ぶっ飛んだ長編も多いですが、短編はさらにこちらの想像を上回るので、読み終わった後に呆然となること間違いありません。
スポンサーリンク
あらすじ
高校時代の同級生の吉住、佃、久保田の3人。卒業してからは疎遠になったのはわけがありました。
ある日吉住の元に「ヒトゴロシ」と電話がかかってきます。切られた電話にかけ直してみると、使用されていないことを告げるアナウンスが流れるだけ。
佃、久保田の元にも同じような電話がかかってきており……。(ファントム・ケーブル)
ファントム・ケーブル/牧野修
牧野修のホラー短編集
収録作品
- ファントム・ケーブル
- ドキュメント・ロード
- ファイヤーマン
- 怪物癖
- スキンダンスの階梯
- 幻影錠
- ヨブ式
- 死せるイサクを糧として
独特な世界に一気に引き込まれる短編たち
牧野修の短編を読むたびにこれだからホラー小説は止められない、とつくづく思います。
ホラーと短編は大変に相性がいいものです。
様々なイマジネーションを万華鏡のように見せてくれる贅沢さがたまりません。どれもこれも、題材としては長編になりそうなものを大盤振る舞い。最高です。
牧野修作品を読みなれていても、いつも予測のつかない方向へと向かうストーリーはグロテスクで血なまぐさいものが多いです。
こちらの想像力の限界に挑んでいるのかと思ってしまうほどに、日常から一気に世界が崩壊していく様は、読んでいてもめまいがしてきます。
本を包括する形式が好き
表題作のファントム・ケーブルも、もっとわかりやすい着地が絶対あるのに、まさかの方向に舵が切られます。読み手は「え?」と翻弄されるばかり。
この作品はこの短編集をリードするもので、物語のふたを開け、最後に閉じる役割を担っています。
短編集やアンソロジーなどにある手法で、ホラーだとクライヴ・バーカーの血の本シリーズがあります。
もちろんそれぞれは独立した短編ですが、それらを包括した1冊の本とするものなのです。わたしはこの形式がとても好きで、そういった仕掛けが施されているとニヤリとしてしまいます。
映画だとアンソロジー形式の「V/H/S」シリーズがありますね。あれも冒頭リードする話がまず始まり、そこに登場する人物がビデオを再生して行きます。そして最後に物語が閉じられるのです。
ホラーではおなじみな形式でもあるんですが、それぞれの作家さんのこだわりが感じられるのが面白い。
想像だけでもはっきりと絵が浮かぶが、映像としても観てみたい……
ここで描かれる物語は、あまりにも酷いものが含まれています。
特に後半の「ヨブ式」と「死せるイサクを糧にして」は畳み掛けるような悪意の連続に吐き気すら覚えます。
この短編集で珍しくワクワク感を残して終わるのが「怪物癖」。
果たして彼女の進む先はどんな世界が広がって行くのか、解放された彼女の行く末がとても気になります。
牧野作品にしては珍しく希望に満ちあふれていてすごくいい。
どの作品も頭の中で映像がありありと浮かぶリアルなグロテスク描写です。
「怪物癖」の世界を誰かリアルに映像化してくれないかな。日本じゃなかなか絶望的ですけど……。