登場するのは全て大阪に実在する土地です。
怪談のような幻想小説のような、という風で、恐怖を求めて手に取ると肩透かしを食います。
ミステリ作家とは違う一面を楽しめる1冊。
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収録作品
幻坂/有栖川有栖
角川書店
清水坂
愛染坂
源聖寺坂
口縄坂
真言坂
天神坂
逢坂
枯野
夕陽庵
心霊探偵が2話に登場します。最初の登場では胡散臭いなーと思ったんですが、2つ目の話で印象がガラッと変わりました。これはこれでシリーズ化しても面白そうです。
恐ろしいだけではない怪談短編集
怪異や幽霊というものはただただ恐ろしく描かれがちなんですが、この短編集はそれだけではない物語が展開されていきます。大事な相手だった人なら、出会えればむしろ嬉しく思ったりするのは納得できます。
誰かの支えになったり、背中を押してくれたりする存在として登場する話もあります。
残された人間の方が生きていくために、現れてくれる場合だってあるんだなと気づかせてくれました。
普段は救いのない話や、ガチで襲ってくるやつなんかを好んでいるわたしですが、こんなゴーストストーリーもいいものだなと思わせてくれます。
実際の大阪の街を知っていると、より楽しめるんじゃないでしょうか。土地勘があると想像しやすいのもありますが、その土地に根付く物語を知っていたりすると「ああ、あれがモチーフね」と思う部分もあるのだろうな、感じました。
生活に根ざした場所のようなので、案外住んでいても名前の付いた坂だと知らないなんてこともありそうですね。
坂じゃなくても日常的に使っている橋の名前を知らないっていうこともざらにありますから。
大阪のというパワフルな土地を舞台に、しっとりとした怪談話が並ぶのが失礼ながら意外で、イメージが変わりましたね。
長く住んでいる筆者だからこそ見いだすことができる大阪の姿なのではないでしょうか。
最後の2話は作者では珍しい歴史小説で、これまでと全く違う一面を見せてくれる作品です。
正直「こういうのも書くのか!」と驚かされました。
色んな意味で意外性がたっぷりある作品集です。
同じ怪談小説に分類されるであろう「赤い月、廃駅の上に」と比較して読んでみると、さらに作者の幅の広さを感じることができるのではないでしょうか。
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